二人椀久
江戸時代末期に作られた長唄の名曲、今も人気曲として上演されることが多い。
椀屋久兵衛は遊女松山と恋仲となるが放蕩を窘められ座敷牢に閉じ込められてしまう。松山恋しさのあまり狂乱し彷徨い歩くうち 松山の幻影と舞い狂うという 幻想的な作品。 甘く切なく 椀久・松山ともに その情感がかなりの難役とされている。
「干さぬ涙のしっぽりと 身にしみじみと 可愛いさの それが高じた物狂い・・・」
と唄い始められ、変化に富んだ曲趣で構成されている。
雨
井上ひさし作の同名小説を邦楽化したもので、徳という一人の男のおかしく悲しい物語。
山形の紅花問屋の喜左衛門に瓜二つのことから間違えられ、言われるままに、贅沢な暮らしと、美人の女房「おたか」に心を動かされて山形へ向かう。道中必死に覚えた山形弁もなんとかこなし、村の人々も、女房のおたかまでも本物の喜左衛門と信じてしまう。
が、思わぬ結末が待っていた。
長唄の今藤政太郎師(平成十六年度芸術院賞)が意欲的に取り組んだ作曲が素晴らしく、雨のスキャット、山形弁の歌詞、セリフの面白さ、そして悲しい心情を切々と奏でる胡弓の響き、山形民謡をモチーフにした展開は聞いているだけでも物語が分かりやすい。
演奏も岡安晃三朗師(徳)、今藤文子師(おたか)、今藤美知氏(お花)の唄が、政太郎師の繊細な三味線とあいまって盛り上げている。
過去に三趣の演出で上演、好評を博し、NHKTVで放送され、山形国民文化祭にも上演した。
今回は一人舞台の演出で、仁章一人が主人公の男「徳」、喜左衛門女房の「おたか」、江戸の夜鷹「お花」、村人達や家老まで全てを素踊りで演じる。
北寄崎 嵩 (きたきざき たかし) 氏
舞台照明の第一人者として数々の舞台を作り上げている。日本舞踊でも作品の理解度の高い照明家として信頼されている。
近年まで国立劇場専属で照明を担当し、先年独立、活躍の場が広がる。
演劇の世界でも朝倉摂氏の舞台美術では必ずと言ってほど欠かせない存在で、数校の大学でも教授として後進の指導にあたっている。
経験豊富な技術と感性で 今回、新しくオープンした「吉祥寺シアター」の照明機構を活かしていただきたくお願いしたが、レクチャー「舞台照明の話」を通じて観客の皆様に舞台創りへの思いを語っていただく。
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